場面No. | 場面 |
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「さくらちゃん…。」
壊れた井戸の外では知世が心配そうにしていた。
しかし小狼の母親が井戸に近づこうとする知世をさえぎった。
「来ます…。」
井戸からは新たなる光の筋が吸い込まれていった。そして一気に光を放つとそれは香港の空に舞い上がるさくらの姿になった!
思わず明るい表情になる知世。さくらはそのまま香港上空に高く高く昇っていった。
「あの人は?」
「上や!」
さくらがケロちゃんの示す方を見ると、たしかに女魔導士の姿がある。
女魔導士は水を集めてさくらに攻撃をしかけてきた!
とっさに空中でよけるさくら。
「ここはどこだ?クロウ・リードをどこへやった!!」
「クロウさんはもう…!」
女魔導士はひっきりなしにさくらに攻撃をしかけてくる。
香港の街には時ならぬ雨が降りそそぎ、時おり崩れた看板まで落ちてくる始末。しかし攻撃は激しく続き、さくらはただよけながら空を飛んで逃げるしかなかった。
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「さくらぁ、逃げてばっかりやったらどうにもならんでぇ!」
「でも、みんなが!」
さくらは女魔導士に吸い込まれたみんなが心配で攻撃をかけられないのだ。
女魔導士はリボン状の帯を伸ばしてきた。そしてついにさくらは女魔導士に捕らえられ、あるビルに引き込まれていった。
まだ建築途中のそのビルはまだ屋上付近は鉄骨がむき出しになっている。さくらは女魔導士のリボンに縛られたままそこにいた。
「言え!クロウ・リードはどこにいる!」
「…クロウさんは…もういないよ…。」
「嘘をつけぇ!」
「本当なの!ずっと前に亡くなってるの!」
「嘘だ!!………あいつが、死ぬはずがない。……クロウ・リードが……。」
女魔導士の元に巨大な水柱が上ってきていた。それは目の前の海から吸い上げられてきているものだった。
さくらはリボンをほどこうとするが体に絡みつきほどけない。
「クロウ・リードが……死ぬはずがなーい!!」
女魔導士の叫びとともに水柱はさくらに襲いかかった。まだ窓の無いビルは結界によって仕切られ、さくらのいるところには水が満ち満ちた。今度は夢の中と違い本物の水だ。
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「…ずっと…待っていたのに…。」
女魔導士はつぶやく。
「ずっと…わたしの全ての力でクロウを呼び続けた…何年かかっても…何十年かかっても…。」
女魔導士からこぼれた涙がさくらの周りに満ちた水に落ちる。
さくらはようやく意識を取り戻した。リボンをほどこうとするがやはりほどけない。
しかしさくらはそこにおかしな光を見た。それは先ほど女魔導士が落とした涙に他ならなかった。
その光からは不思議な光景が見えた。どうやら過去にあった情景のようだ。
それはあの本の表紙に描いてあった古井戸だった。女魔導士と一緒に男がひとりいる。
「このような物をもらういわれはない。」
「今日はあなたの誕生日でしたよね。それはあなたに差し上げたのです。不要なら捨ててください。」
そう言って男は女の前から去っていった。
涙の光はさくらの前で静かに消えていった。
「…やっぱり…この人…。」
さくらはリボンをほどこうとするが渾身の力を振り絞ってもほどけない。
フと上を見上げると水面は光を放ち静かに男の声が聞こえてきた。それは以前に夢の中で聞いたあの声だ。
「水は…流れゆくものですよ…。」
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「水は…流れゆく…?」
それが意識を失いかけているさくらが見た夢なのかは分からない。しかしさくらはその声に何かがひらめいた☆
「そうだ!」
さくらは不自由な腕をなんとか後ろに回してカードを取り出すと呪文を唱えた!
「アロー!!」
さくらの足下に魔法陣が広がる。杖に打たれたカードはアローの魔法へと姿を変えた。
アローは瞬時に水の外に飛び上がるとビルに向けて無数の矢を放つ。矢は建築中のビルの床板に次々に命中し、水はそこから流れ出ていった。
その光景に女魔導士はひるんだ。さくらはその隙にいましめを解いたらしくジャンプの魔法で女魔導士の元に上ってきていた。
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「おのれ…。」
女魔導士は恨みをこめてさくらを見据える。しかしさくらは悲しげな瞳で女魔導士に近づいていくのだった。
その姿に女魔導士の動きが止まる。
「クロウさんの事、本当に好きだったんだね…。」
さくらの言葉を静かに聞く女魔導士。
「辛いよね…。大好きな人がいなくなるのは…辛いよね…。」
さくらは明らかに泣いていた。女魔導士はやはり静かに聞いていたがやがて口を開く。
「クロウ・リードは…本当に死んだのか?」
泣きながらさくらは小さくうなづいた。
女魔導士のリボン状の帯が動く。しかしそれは攻撃を意味するものではなかった。
「ずっと…ずっと、待っていたのに…。」
その言葉にさくらはゆっくりと顔をあげた。
「長い間…ずっと…。」
女魔導士の体が端からじょじょに光を帯びて崩れてゆく。いや、消えてゆくと言った方がいいかもしれない。
「会って…言いたいことがあったのに…。」
女魔導士の姿はそのまま静かに、とても静かに消えていった…。
その後には、女魔導士が着けていた髪飾りだけが足下に残されていた。
さくらはその髪飾りを拾い上げる。すると心の中で声が響いた。
「水は…流れゆくものですよ…。」
「あの声…クロウさんだったんだ…。」
さくらの手の中で髪飾りが音をたてて粉々に壊れて消えていった。
そしてそれに合わせたかのように、さくらの周りに捕らわれていたみんなの姿が現れた。
それは紛れもなく女魔導士がこの世から消え去った事をも象徴しているようだった。
「あぁ…リーくん、苺鈴ちゃん、お兄ちゃん……雪兎さん…。」
さくらはまた涙ぐんでいた。が、今度は明らかにうれし涙に違いなかった。
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翌日。香港島へと向かうスターフェリーの中。
「父さんの土産、何がいいと思う?」
「んー、お茶とかどうかな?」
「お茶ぁ?」
桃矢はすでにお土産の心配をしているようだった。
さくらはひとり海の先に見える街並みを眺めていた。そこにビデオを抱えた知世が近づく。
「明日はもう日本ですわね。」
「うん。」
しかしケロちゃんは不満そうに言う。
「なんや散々やったなあ。特に昨日は…」
「そんな事ないよ。」
「?」
さくらの意外な返事にケロちゃんと知世は怪訝な顔をする。
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「あたしも言いたいの。自分のホントの気持ち。判ってほしいもん。」
ケロちゃんと知世はお互いに目を見合わせる。
「あの人…クロウさんに言いたい事があったんだよ。どうしても言いたい事が…。」
それはさくらだけが知っている女魔導士の気持ちだった。
雪兎からプレゼントされた髪飾りを取り出して見つめるさくら。
そしてさくらは窓から外を眺める雪兎本人に目を向ける。
「わたしはいつか…言えたらいいな☆」
頬を赤らめるさくら。
それを見てさくらにビデオを向ける知世。
「また…香港に来られるといいですわね。」
「うん★」
ファインダーの向こうでさくらはニッコリと微笑んだ。
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[エンディング]
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