場面No. | 場面 |
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55 |
骨董店。
止まっていたらしい時間が動き出す。
光と共にさくら達はまた骨董店に戻ってきた。
「さくらちゃん…。」
「わたしのせいで、みんな…。」
「さくらのせいやない!悪いのはみんなあの本の中の…。」
「…ほん?あの本!?」
「そういえば…。」
さくらとケロちゃんは本を探すが、すでに机の上からは姿を消していた。
「ほん?」
知世が尋ねる。
「知世は分からんかったやろうけど、ワイらがさっきまでおったんはあの本の中の世界やったんや。」
「じゃあその本があれば、みなさんを…。どんな本ですの?」
「たしか…こう、古〜てみょーな気配のする…。!?気配が消えてもうとる…。」
さくらがポツリとつぶやく。
「無い…どこにも無いよ…。」
「さくら…。」
「リーくん…苺鈴ちゃん…お兄ちゃん……雪兎さん…。」
さくらは今にも泣き出しそうな気配だ。
「しっかりせえ!とにかくなんとかしてあの女魔導士を…ああぁっ!あの女〜!思い出したっっ!!」
ケロちゃんは何かを思いだしたようだ。
「お客さんですかー?少々お待ちくださいー。」
しかしその時骨董店の二階奥から声が聞こえた。どうやら店の者がいたらしい。
「誰か来ますわ。」
「とりあえずズラかるで!」
さくら達はいそいそと店を出ていった。
「お客さーん。日本の人〜?なに欲しいか〜?」
店主らしき老人が下りてきたが、すでにさくら達の姿は見えなくなっていた。
何も知らないらしき老人はただ目をパチクリとするだけ…。
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ホテルの部屋。すでに夕方になっている。
部屋ではケロちゃんがさくらと知世に女の正体を説明していた。
「あの女は昔ここ香港におった占い師の姉ちゃんや。」
「うらない?」
「せや。たしか水占い言いよったかなあ。水面にいろんなモンを映しだして見せるんや。そこそこ評判も良かったらしけど。」
「けど?」
「ある日、クロウ・リードが現れた…。」
「クロウは別に占い師やない。せやけど片手間にやっとった占いがよー当たるもんやから、あの姉ちゃんの商売あがったりになってもうてな。」
「まあ…。」
「それからは事あるごとにクロウに戦いを挑んでくるようになりよった。」
「でも…そんなに昔の方ならすでに亡くなってるのでは?」
「術や!」
「じゅつ?」
「死んだ後もあの本に自分の想いだけ移してあるんや。ムッチャ難しい術で、よっぽど根性無かったら何十年も保つ術はかけられへん。たぶん今となったら自分が死んどるっちゅう自覚も無いやろうけど…あの姉ちゃんよっぽどクロウのこと恨んどったんやなあ…。」
「ていうことは、術の目的って?」
「クロウを本の中に封じ込めるつもりやったんちゃうか?」
「それでクロウカードを持ってるさくらちゃんが引き寄せられたんですね。」
「でも!どうしたらもう一度本の中に入れるんだろう?早くしないとみんなが!」
「うーん、あの手の空間には必ず出入り口があるはずやねんけど、さっきの店からはもう気配が消えてもうてた…。」
「あの本ももう無くなっちゃったし……本?」
しかしさくらにはひとつ思い当たる事があった。
「わたし知ってる…。あの本の表紙…。」
「ええっ?」
「あの女の人がいた場所……あの井戸だ!」
さくらは思い出した。本の表紙に描かれていた井戸は昨日さくらがたどり着いたところに間違いなかった。
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「さくら…なんか判ったんか?」
「うん!わたし入り口知ってるよ!昨日そこまで行ってるの☆」
「じゃあ、みなさんのところへ行けますわね☆」
「うん!!」
「よっしゃあ!カードキャプターさくらの出番やあっ!!」
「うん★」
うなづくさくらに、知世がきらきらした目で衣装を取り出してきた。
「では、さっそく着替えを☆」
「はう〜。」とずっこけるさくら。
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月夜。さくら達はフライの魔法で井戸にたどり着いた。
知世が準備した衣装を着て井戸の前に立つさくら。
「ここか?」
「うん。」
ケロちゃんの言葉にさくらが答える。
「たしかにビンビン気ぃが伝わってきよる。」
一歩一歩さくらが足を進めると井戸の周りの様子が変化した。
さくらが思わず立ち止まると井戸を取り囲むように光の壁が立ちはだかった。
「さくらちゃん!」
さくらが近づいて杖で光の壁に触れると杖は瞬時にはじき返された。
「どうなってんの?」
「こら結界や!」
「結界?」
「井戸の周りに強力な結界が張られとる!」
「どうしたらいいんでしょう…。」
知世も心配そうだ。
「悔しいが今のワイらの力ではどうにもならん!」
「そんなあ…!」
さくらはあきらめきれない。しかしその時、ケロちゃんは背後にただならぬ気配を感じた。
「?」
「どうなさいました?」
「誰か来よる!」
井戸全体を囲むように立っている建物の陰から確かに誰かが近づいてきていた。
知世はケロちゃんを隠すため、さくらの衣装の帯に導く。
「こちらへ…。」
「お、おう…。」
ケロちゃんはさくらの帯に隠れた。そして建物の陰からあらわれた人物は…なんと小狼の母親だった!
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「リーくんのお母さん?!」
母親はさくらを脇に寄せると結界の前にひとり立った。
「下がっていなさい。」
「あの…どうして?」
「小狼の気がとぎれました。」
「あ…それは、わたしが…。」
「いいえ、違います。ただ…アレの力が及ばなかっただけ。」
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母親は持っている扇をまっすぐに構えた。扇は白い光を放っている。
それはあきらかにさくらとは違う強い力を感じるものであった。
そして扇をそのまま結界に近づけると、はじかれることもなくそのまま差し込んでいった。
「ものごっつい魔力や…。」
ずっと見ていたケロちゃんがつぶやく。
扇はズブズブと結界を断ち切るように隙間を広げていった。
すでに人ひとりが入れる空間がひろがっている。さくらは口を開けてただ見ているだけだった。
「行きなさい。」
母親がさくらをうながした。
「は、はい!…知世ちゃんはここにいて。」
「さくらちゃん!」
さくらはひとり結界の中に入っていった。知世も後を追おうとはしない。
「気をつけてくださいね。」
「うん!」
さくらは結界の中で知世を振り返った。
「…この服…すごく動きやすいよ☆」
「…完全防水になっています。水の中でも大丈夫です。」
それはお互いを想う気持ちのやりとりだった。さくらは知世に対してニッコリと微笑んだ。
そしてそのまま井戸に向うと、結界は徐々にふさがりさくらの体を隠していく。
結界がふさがると母親は力を失い倒れこみそうになったがそれを知世が支える。
結界は全体が真っ白の光に包まれた。
「さくらちゃん…」
知世は心配そうに井戸を見つめている。母親も知世に体を支えられながら井戸を見つめるだけだった。
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井戸の中。さくらは魔法を使うこともなくゆっくりと下りていっていた。
「ここは?」
「次元のトンネルや。周りよう見てみ!」
さくらが周りを見回すとたくさんの光の窓が見える。
「いろんな空間とつながっとる。ここで迷子になったら一生出られへんでぇ!」
「どうすればいいの?」
「想うんや!さくらの強う想う気持ちがあればそこに出られるはずや!!」
さくらは目を閉じるとみんなを想った。
「みんなのトコロへ!」
すると足下にひときわ強く輝く光の窓があった。
「あれや!」
さくらとケロちゃんはその窓に吸い込まれるように下りていった。
下りた先はなにか広い建物の中庭のようなところだった。中央の池のような場所に四方から水が流れ込んでいる。
「ここじゃない…。どうしよう、違うところに出ちゃったみたい。」
「いや…この気配は…。」
「え?」
そこに二羽の鳥が突然さくらの前を横切っていった。
「あっちや!!」
「うん!」
さくら達は鳥を追った。
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闇の中を走るさくら。
明るいところに出るとそこはバードストリートであった。だがそこには人の気配はしない。
「バードストリート?」
「どうやらいろんな空間が混ざってもうとるみたいやな…。行くで!」
「うん。」
さくらはまた走り出す。
路地を抜け建物の陰をくぐり、さくらは走った。
「気配がだんだん大きなっとる。近いで!」
さくらはまた走るが、ついに歩みの止まる時がきた。そこは大きな扉の前だった。
「ここから気配がする。」
「ああ…。」
さくらはゆっくりとノブの無い扉に手をかけると力をこめて押し開けようとした。
扉は小さな音を立てて開いたが、中には水が満ちていた。しかし水はさくらのもとに流れ出る事は無いようだ。
「さくら…。」
ケロちゃんの声にさくらはまっすぐに水の中に入っていった。ケロちゃんも大きく深呼吸して水の中に飛び込んだ。
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63 |
水の中を進み、水面に出るとそこはあの夢の中の部屋だった。光射しこむ天井の下には女魔導士の姿が見える。
「また、きさまか…。なぜ戻った?」
「お願い!みんなを返して!」
「返してほしくばクロウ・リードを連れて来い。」
ケロちゃんが割って入る。
「いくら連れて来たてもできへん!クロウはもう…」
「ずっと…待っていた…。クロウが来るのを…ずっと…。」
「人の話は最後まで聞けぇ!!ったくぅ。」
女が目を閉じると部屋はさらに異様な雰囲気に包まれた。柱にヒビがはいり、天井が徐々に崩れてパラパラと落ちてくる。
さくら達は思わず我が身をかばう。しかし女魔導士の前にみんなが入った球があるのを見つけさくら達は目を見張った。
球は女魔導士の体に一気に吸い込まれていった。
「ああっ!」
崩れゆく中で、女魔導士はボオッと赤く光っていた。明らかに怒りが見てとれる。
「…みんな…。」
「これが最後だ。クロウ・リードはどこだ?」
「せやから!クロウはもうおらへんっちゅうたやろお!」
「ならば、ここで朽ち果てるがよい!!」
女魔導士は赤い光となって姿を消した。後は崩れる部屋とさくら達だけが取り残された。
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井戸の前。小狼の母親と心配そうな知世の姿があった。
井戸は赤く光っていたが、やがて全体が輝いて光の柱となった。
とっさに母親が知世をかばう。
井戸は完全に崩壊していた。光の柱は天をつくように香港の夜を染めた。
その光に乗じて女魔導士は香港の空に出てきていた。
「ここは?」
あきらかに自分がいた時代と違う光景に女魔導士は戸惑っているようだった。
そして心配そうに壊れた井戸を見つめる知世。
その頃さくらはまだ女魔導士の空間にいた。部屋はどんどんと崩れてゆく。
「さくら…。」
ケロちゃんの言葉にさくらは封印の鍵を取り出した!
「闇の力を秘めし鍵よ!真の姿を我の前に示せ。契約のもと、さくらが命じる。レリーズ!!」
さくらの足下に魔法陣が広がる。封印の鍵は杖となってさくらの手に収まった。
「フライ!!」
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