「劇場版さくら」各エピソード(#4/4)

小狼の母親の力
 結界の張られた古井戸に小狼の母親がやってきますが、さくら達がやっとの思いでたどりついた古井戸にどうしてあっさりとやってこれたのだと思いますか?
小狼母はさくらの問いに「小狼の気がとぎれました」と答えましたが、正直なところこれをそのまま受け止める気にはなれません。というのも、小狼の気がとぎれたのは本の世界でであり、だとすると骨董屋に現れる方が自然に思えるからです。また、「とぎれた気を追いかけて古井戸にたどり着く」というのも変な話です。すでにとぎれているのなら古井戸から漏れているとも思えないからです。

そこでひとつ考えました。実は小狼の実家で去り際にさくらに対して与えたキス、これをマーカーとして追いかけてきたのではないかと…。小狼母くらいの魔法力があるならば、そのキスには目に見えない魔力があるはずです。本来ボディガードとして小狼をつけていたものの、その気がとぎれたためいざと言うときのためのマーカーを頼りに古井戸まで来た。と、こういう展開をイメージしてみました。もちろん邪推にすぎませんけど。
だって、小狼が驚いてたくらいだから誰にでもキスしてるわけじゃなさそうですし、なんか意味ありげなんですよねーあの行動って。
知世の気配り3
 最後の決戦を前に知世はさくらに付いていきません。普通なら「私も行く!」となるシーンなのですが、ただ「気をつけてくださいね。」と言うだけなのです。ここもまた、本当に知世の性格を見事に表しているな〜と感心したところです。そして振り返ったさくらが知世に対して「…この服…すごく動きやすいよ☆」と一言かけ、知世も「…完全防水になっています。」と返すあたりのやりとりもふたりの信頼関係を絶妙に表していて、何度見ても胸にくるものがあります。
想うんや!
 いろいろな空間とつながっている井戸の中で、ケロちゃんはさくらに対し「想うんや!さくらの強う想う気持ちがあればそこに出られるはずや!!」と言います。ここで、「新しいセフィーロの名前はあなたが付けてね☆」とか思い出した人は立派なレイアースファンです(笑)
苦しくない水
 闇を走りいろいろな空間を抜け、ついにたどりついた巨大な扉。扉をあけると中は水で満たされていましたが、さくらはそのままスッと入ってゆきます。このへんは最初の夢の中でさくらが「あれ?苦しくないよ。」と言っていた伏線が活きているシーンだと思いました。ケロちゃんだけが大きく深呼吸して飛び込んでいるあたりが微笑ましいです。
井戸のある場所
 最終決戦の時に魔導士は井戸を突き破って香港上空に姿を現しますが、この井戸を突き破って香港の街に一条の光が立ちのぼるところは中國銀行と香港上海銀行の間です。実際の香港ではここには最近まで建設中のビルがあったため、舞台としては出来すぎなほどにあまりにもぴったり符号しています。やっぱり世の中に偶然は無いと…(くどい。)
さくらと魔法陣
 魔導士が香港上空に出ていきさくらとケロちゃんだけが異世界に取り残された時に『初めて』さくらは「闇の力を秘めし鍵よ!」と決めの呪文を唱えます。それまでも冒頭でカードを使ったり、バードストリートでこっそり「レリーズ」を言ったりはしていたのですが、やっぱりカードキャプターの格好でクライマックスにやるのがいちばんですね。見せ場をこころえたニクイ演出は何度見ても心を躍らせてくれます。
さくら香港上空へ
 さくらが香港上空に飛び上がるシーンも、さくらが正式に呪文を唱える直前のシーンに続いて映画の見せ場だと思います。井戸から飛び上がった光が空に舞い上がってさくらの姿になるところはそのあまりのカッコよさに惚れ惚れするほどです。また、その瞬間にそれまで心配そうにしていた知世の顔がパアッと明るくなるカットがはさんであるあたりもスタッフの心配りが感じられて嬉しいです。一般的な魔法少女では見られない見せ場ですし、いかにも劇場版を意識したその作りにはスタッフに対し頭が下がる思いです。
香港島から九龍へ?
 魔導士は香港上空でさくらに攻撃を加えますが、その1シーンでオタクビルとして有名な「信和中心」がある旺角の通りがモロに登場しています。戦っているのは香港島ですのでそこから海を挟んだ九龍までいきなり飛ぶとは考えにくく、単純に作画資料が混ざったのだと思われます。(^_^;)
(パンフレットP.20右下の写真がそれです。もしくはコンプリートブックP.22中央下の写真。)
まあ、最初にさくら達が香港島に来た時も油麻地の景色(「義順」の看板はこれです)が出ていましたしね。
戦わないさくら
 さくらは魔導士に対して最後まで戦いを仕掛けません。もちろん魔導士の体内にみんなが吸い込まれているからというのもあったでしょうけど、それでも最後は戦わなかったと思います。そしてそれは私が「劇場版さくら」が作られるにあたっていちばん求めていたものでもありました。というのも、クロウ・カード編でさくらは一度たりとも敵を倒した事がないからです。カードを集める目的でバトルを行うのはしょっちゅうですが、さくらは誰かを倒したりはしたくないでしょうし、またファンとしてもそれを見たくはありません。この映画ではそれを見事に体現してくれました。本当にありがたかったです。
本物の水
 最終決戦で、魔導士はさくらに対して本物の水をぶつけてきます。そこでさくらは夢の中で聞いた「水は流れゆくもの」という言葉に目覚めアローの魔法を使うわけですが、このイメージはすごく面白いと思います。というのは魔導士が魔力で作った世界では水は自由自在に扱えたわけですが、本物の水ならばたとえ魔力で操作したとしても物理的な力が働くからです。(実際に魔導士は建設中のビルに水を蓄えるためにわざわざ魔力で壁を築いています。)このへんは特に劇中で説明されることはありませんし特別に意識もしないところですが、うまい使い分け方だなと思えるところでした。
アロー出動!
 冒頭のシーンがクライマックスで活かされる。正直なところいちばん最初(試写会)に見たときには、アローのカードを後で使うなどとは思っていませんでした。ドラえもんの劇場版では新しい道具は説明を加えますが、この場合は冒頭でどんなカードなのか分かっているため説明もいらず非常にスマートに見せてくれています。
わたしはいつか…
 私は20回以上劇場版さくらを見に行きましたが、何が見たいって最後の最後である「わたしはいつか…言えたらいいな☆」とつぶやく、このシーンを見たいがために足を運んでいると言っても過言ではありません。
原作マンガでもTVアニメ版でも出てくるさくらの雪兎への淡い想い。そして劇場版で魔導士がクロウに対してなしえなかった想いがすべて集約されているのがこのシーンのセリフです。もう感動〜!!!

 それから、エンディングにつながるラストカット。知世が「また、香港に来られるといいですわね。」と言って、さくらが「ウン☆」と答えるところなのですが、ここに意識的にか無意識にできたものか分かりませんがスタッフの演出としか思えないところが感じ取れます。というのは、このさくらが「ウン☆」と答えてからエンディングに入るところでタイミングがほんのちょっと、それこそコンマ数秒ほど足りないのです。ところがこの足りないところが残心(剣道用語で済みませんが字の通り心を残すという意味です)になって、後を引いてしまうのです。そんなわけで後を引かれた私は何度も何度も映画館に通ってしまったと…言い訳ですけどね☆
服装に見るこだわり
 さて、映画全体を見ていきたいのですが、劇場版さくらではその服装でも非常にこだわりが見られます。
パジャマについては上の項目(「さくらと夢の中」)でも書いたのですが、さくらは日本にいる時に冬用、香港では暑いので夏用、そして借り物の中華なパジャマは慣例的に冷房をガンガンに効かせる事の多い香港らしく長袖になっているというあたりきちんと風土に合わせて使い分けされていました。
そしてさくらや知世の普段着ですが、これまた凝っています。というのは、香港1日目では冬の日本から行くためさくら達は「重めの夏服(秋物?)に上着を羽織って」います。そしてホテルに着くとカーディガンなどの上着だけを脱いでそのまま外に出ています。これは12月くらいに香港に行く旅行者の「当たり前の行動」で、こういう細かな描写がリアル感を高めているのは間違いありません。また香港2日目からは動きやすいように最初から身軽な夏服に着替えているのも見逃せません。そして香港3日目は小狼の実家から直接出ていったため2日目と同じ服装で、香港4日目ではきちんと別の服に着替えています。当たり前といえば当たり前なのですが着のみ着のままのアニメが多い中でここまで丁寧に描き分けていると好感がもてます。
蛇足ですが、少女マンガではこのへんの配慮は昔から当たり前に行われていました。少年マンガ、青年マンガでも最近はこのへんに配慮する作家が出てきていますが昔はろくでもなかったです。やっぱり男の方ががさつで鈍感だったんでしょうね。(他人の事は言えないが(笑))
さくらの魔法の使い方
 さくらが劇場版の中でどれだけのカードを使ったか瞬時に言える人はどれだけおられるでしょうか。
まあ瞬時に言えるかはともかく、実際に使われたのは意外に少なくわずか5枚です。使われたカードは「フライ」「ウインディ」「ジャンプ」「ソード」そして映画の冒頭に登場した「アロー」です。ところが面白い事に、TVで登場回数の多いカードというのがまさにこの最初の3枚なのです。しかも出てくる順番まで登場回数の順位(「フライ」「ウインディ」「ジャンプ」の順)とぴったり一致しています。まあ、ドラえもんのタケコプターと同じで説明を加えることなしに使える便利な道具と言ったらどうしてもあの3枚に集中するんでしょうけどね。

 そういえばカードの使い方でもこの映画でのこだわりは見て取れます。今回の劇中では特に「ジャンプ」が多用されていましたが、この演出には見事なものがありました。まずはバードストリートで鳥を追いかけて古井戸にたどり着くシーンですが、ここでさくらが地上に降りた時にカットが変わってその一瞬にジャンプの魔法が消える瞬間がちゃんと描き込まれています。意識してないと見落とすような場面ですがスタッフは配慮を忘れていません。次に、キャット・ストリートで鳥を追いかけるシーンですが、ここでさくらは袋小路に入り塀を飛び越えて裏路地に出ます。この飛び降りるカットでもほんとうに一瞬だけジャンプの魔法が消えるのが描かれています。この時は塀越しにさくらの使う魔法の光は見えるものの何の魔法を使ったかは呪文が聞こえないので分からないのですが、そういうところでしっかり説明されていたわけです。そして最後に、決戦の時にアローの魔法で呪縛を逃れさくらは魔導士と対峙しますが、この際に呪文も何も聞こえませんがきちんとジャンプの魔法を使って上まで上がってきています。こんな具合で、とにかくこれでもかというくらいに魔法描写はこだわっていました。
カッコいいぞ小狼くん!
 今回いちばん活躍したのはさくらですが、助演男優賞を与えたいくらいに大活躍したのはやっぱり小狼ですね。小狼は劇場版では隅から隅まで本当にカッコよかったです。あ、通知表を除いては(笑)
実は何回か見るまで気づかなかったのですが、小狼くんってばさくらを3回も助けに来たにも関わらずカードの魔法を使ったのは最後だけなんです。(フリーズとストームの2枚。)このへんがさくらと小狼のふだんの魔法力の違いではあるのですが、まずはカードに頼らずに守ろうとしているあたりに小狼のこだわりと男気を感じてしまいます…☆
そして何より最後までくじけずに可能性を信じて戦いぬくあたり、「逃げろ!」と言える勇気を持っているあたり、小狼の母親は「アレの力が及ばなかっただけ。」と謙遜してましたけど、どうしてどうしてお宅のお子さんは立派に成長なさってますよ〜☆

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